惑星物質研究所の所長に2022年4月1日に着任しました芳野極(よしの・たかし)です。岡山大学惑星物質研究所はラジウム温泉として名高い三朝温泉のある鳥取県三朝町にあります。その母体は戦前まで遡ることができ、戦後は新制の岡山大学の温泉研究所として医療と地球科学を兼ね備えた研究所として発展しました。1985年に地球科学分野は共同利用研「地球内部研究センター」として独立し、その後のいくつかの改組を経て2016年に惑星物質研究所となり地球内部の進化からサンプルリターンを始めとした惑星や生命の起源へ迫る研究へと展開が広がり、現在に至っております。当研究所は地球惑星深部を再現した高温高圧実験、有機から無機まで総合的な化学分析が可能であり、その特色が評価されて2022年度から始まる第4期中期計画においても共同利用共同研究拠点として更新が認定されました。歴史と伝統のある本研究所の所長を務めることは、たいへん重責かつ光栄なことだと感じております。惑星物質科学の研究拠点として集中的に整備された分析・実験機器を国内外を問わず幅広いコミュニティの皆さんに如何に効率良く、整備された形で提供することが研究所の大きな使命の1つであります。
惑星物質研究所と私とのかかわりは、2001年4月に当時の固体地球研究センターへ機関研究員として着任したことに始まります。大容量のマルチアンビルプレスを用いて、地球や惑星深部の物質の輸送特性に関する研究を行ってきました。その後2008年2月には准教授、2019年4月から惑星物質研究所の教授に昇任し、今に至ります。この間、共同利用研究者とのコラボや学生の指導を通じて、多くの研究者と接する機会を得たことは今後の研究所の発展やネットワーク作りにおいて大きな財産となっております。昨今、共同利用・共同研究拠点のあり方は、コロナ禍の今、大きな見直しが迫られております。コロナの第6波に至るまで来所による研究がたびたび難しい状況となり、特に国際共同利用研究は来所によるものは皆無となりました。研究に集中できる自然環境の中で温泉設備の整った宿泊施設を備えた本研究所での長期滞在型の共同研究の魅力が発揮できないことは、歯痒い状況ですが、代行実験や代行分析、装置の自動化リモート化を推進することで、コロナ禍前以上の共同利用を受け入れられるよう体制を整えていく所存です。
一方で、最近の社会情勢の不安や急激な変化は、社会のパラダイムシフトを必然的に引き起こさざるを得ない状況で、研究所のハンドリングにおける所長の重要性は増しております。地球惑星を対象とした研究を展開している本研究所としても社会の要請に応えた新たな方向性を模索していかなければならない時期が到来しております。特に気候変動、地震火山災害といった問題、SDGsに関わる環境問題に関しても本研究所のバックグラウンドと研究資源設備を活用することで大いに貢献できるものと考えており、活動の幅を広げていきたいと思います。研究所においてもそのような議論を活発化させて、所員の皆さんの意欲を掻き立てる場を創出し、大枠の方針をリードすることも所長の大きな役目であります。
地球惑星研究に関わってきた皆さんは、人類の根源的な知識欲を満たす基礎研究として研究に邁進されていると思います。これからも、地球になぜ知的生命が根付いたのか、地震火山活動が起こるのかなど、地球内部のダイナミクス、地球磁場の形成など惑星全体をシステムと捉えて理解し、さらに、他の惑星との比較を行うことで今後の宇宙開発、環境変化の予測といった部分で、今後の人類、次世代のために役立つ研究である自負をもって研究を進めていただきたいと思います。今後は惑星物質研究所の長所を活かして新しい横断的な研究をもっと推進していきます。構成員や共同利用研究員の皆様とともにますます本研究所を盛り上げていく所存でおります。ご支援・ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。