アスベスト曝露による癌発症機序の謎:喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと
概要
岡山大学惑星物質研究所の中村栄三特任教授らの研究グループは、悪性胸膜中皮腫患者(喫煙者と非喫煙者)の肺全摘手術後の肺組織からアスベスト小体を分離し、地球化学的手法を応用し、これらを比較観察しました。喫煙者と非喫煙者のアスベスト小体について、形態および化学組成に差異が認められました。喫煙者のアスベスト小体は、非喫煙者に比べて小さく、密度が高く、鉄に富んでいました。分析されたすべてのアスベスト小体を構成する含鉄タンパク質中の鉄は水酸化鉄の中でも結晶性の極めて低いフェリハイドライトから構成されることが明らかになりました。このことは、フェリハイドライトが含鉄タンパク質の殻に包まれたままであり、遊離鉄イオンの発生を抑えていると考えられます。従って、アスベスト小体中の鉄分が触媒となり活性酸素を生成している可能性は低く、活性酸素が悪性胸膜中皮腫の原因でないことを示唆します。
詳細は 岡山大学がプレスリリースした記事 をご覧ください。
論文情報
論 文 名: An investigation of the internal morphology of asbestos ferruginous bodies: constraining their role in the onset of malignant mesothelioma (邦題名「アスベスト曝露による癌発症機序の謎:喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと」)
掲 載 紙: Particle and Fibre Toxicology
著 者: Maya-Liliana Avramescu, Christian Potiszil, Tak Kunihiro, Kazunori Okabe, and Eizo Nakamura
DOI: 10.1186/s12989-023-00522-0