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付録: Hemley氏によるコメント


以下のコメントは評価委員会報告書でなされた論旨の主要部を補うために書いている. 最初に, ISEIは多くの点で世界のどこも比肩するものがない, 並外れて優れた研究所であると, いう評価委員会の所見を繰り返したい. ISEIは, 伝統的に高圧研究と地球化学において強力であったが, 最近も旺盛な活動によって多数の新しい技術 (化学分析, 分光学, 焼結ダイアモンド利用技術, 放射光実験, ダイアモンドアンビルセル) を開発することでこれらの研究を強めている. その上,意欲を持ち精力的なそれも多くは若い人達が, 科学の最前線の研究を行うだけでなく, 設計や製作はしないにしても, 自分達の装置をきちんと維持している.研究所の基本設備や装置はすばらしい状態にある. この点で前回の報告書に記されていた問題の多くは解決されている.
  このような研究所ではその強さを決めるのは人であるので, この点に関していくつかコメントしたい. 第一に, 現在のISEI内の教官組織は, 部分的には歴史的なものを引き継いでいるためにやや不自然な形をとっているが, 研究者・グループ・部門の間の共同研究や交流を促進するという意味ではかなり役立っているように見える. このことは, 学問的興味と技術に共通点を持つ高圧 (地球進化) とマグマ/融体 (基礎火山学) の両部門でもっとも明らかである. 基礎火山学部門は最も新しい部門であるが, 近代的な岩石学・野外研究・理論的モデリング・分光学を含んでおり, ほかの部門とのさらなる交流により, この特長をさらに推し進めることが可能であろう. 基礎宇宙化学部門 (つまりPML) は世界第一級であり, 一つの建物にあるものとしてはおそらくどこよりも素晴らしい装置をもっており, 優れた指導下にある精力的で熱心なチームからなっている. このグループはすでに多くの成果を出しているが, さらに発展して強い影響力を世界に与える事や, 研究所内の他のグループとの交流や共同研究がさらに強まることが期待される.
  わたしは, 歴史的に非常に強力な高圧グループの活動を以前から良く知っていた. このグループは世界一級であり, 焼結ダイアモンドプロジェクトや放射光の応用のような, 最先端の技術の開発をさらに推し進めている. レーザー加熱ダイアモンドアンビルセル実験室 (形式的には基礎火山学部門) は重要であり,大容量(多重アンビル) による研究を補うものとして歓迎するべきである. この研究を推進するために(この両方の実験を行うことが出来る人を含めて) 教官を増加することを含む強力な支援がなされるべきである.ダイアモンドセルの研究は, SPring-8を利用して放射光実験を行うことにより,大きな成果が上がるであろう. 高圧試料の構造解析のために, 電子顕微鏡にもX線的手法にも経験を有する正規の教官を雇うことが決定的に重要である. また, それに加えて,(光学的と振動的) レーザー分光学の分野の (いろいろなレベルの) 人を雇うことは,研究所全体として有益である.
  外部評価委員会報告書は, 以下の五つの点で改善を行えば, ISEIをもっと活動的にし, レベルをさらに上げる事が可能であろうという提言を行っている. (1)   高いレベルの技術者を雇うこと. (2)   大学院生の数を増やすこと. (3)   研究目標を設定すること. (4)   地球ダイナミクスの研究者達と交流すること. (5)   三宿所の居住性を改善すること. このうち最初の4点について, 以下の点を付け加えたい.

(1) 報告書で述べられているように, この研究所の, 益々複雑さをます膨大な量の設備を作り, 維持し, 運転するためには, もっと多くの技術的サポート (技術者) を得ることが基本的に重要である. 研究者が (どのレベルであっても) 技官の仕事をこなしたとしても, 研究の生産性を最高に上げることにはならない. 設計や機械工作の面では, 最新のコンピューター支援の技術を用いれば研究者が効率的に実行できる場合もあるが, その場合には, 最先端の機器とソフトウエアが必要である. 他の場合には技官の存在が最も重要である.

(2) 研究所の科学における影響力を最高にするには, もっと多くの人々 (大学院生に加えて, ポスドクやより年配の科学者) を研究所に引きつけるようさらに努力すべきである. この状況はここ数年で大きく改善されたが, さらにもっと多くの人々を集め, 訓練することで, 研究所は成功を続けることができよう. 地球化学グループによって始められた学生の訪問プログラムは, 研究所全体の活動として取り上げるべきであろう.

(3) 研究所内の交流と共同研究をさらにおし進めることにより, 研究のレベルを上げることができるであろう. 現在進行中の様々なプロジェクトは非常に優れており, センター長やグループのリーダー達は, その研究が科学の最先端にあり, 利用できる設備を最も効果的に使用しているという条件を満たすなら, 教官やポスドク研究者や学生が自分で興味を持っている科学的問題 --- たとえそれが地球科学の範囲を超えていても --- を自由に追求できるようにするべきである. しかし一方, 研究所の持つ専門技術や設備を効果的に用いるような, 小規模な研究では解決できないような大きな問題をとりあげて, 研究所全体の研究目標, 事業, あるいはプロジェクトとして取り組むことは, ISEIにとって有益である. けれども, このような活動は, 小さなスケールのプロジェクト (各研究者個人のものやグループ間のもっと小さな共同研究) を育て続ける一方で行うべきである.

(4) 河野長がセンター長として加わったことにより, 研究所にこれまでになかった観測的な地球物理学の展望が開けた. このことは, 地球電磁気学における新しい共同研究が可能になっただけでなく, これまでこの研究所や所員と直接的な接点がほとんどなかった, 日本やその他の国のもっと広い地球物理学の分野(地球電磁気学の他に, 例えば地震学や地球ダイナミクス) の人々と, 広範囲 にわたる交流を行うよい機会をあたえる.このような交流を広めるには, 研究 集会や研究所間の (共同) 研究プロジェクトや,国内外の学会での学際的セッションから始めることができよう. 宇宙科学や生物学との連携による可能性も,これらの分野に興味をもつ若い人を雇うことによって発展させることができるかもしれない.


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