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4    提言

以下の諸点は, 国内および国際的な科学の世界においてISEIの存在感を今以上に増すことに役立つと思われる.

(1) 技術革新を推進できる高い能力を持った技術者の雇用

最も重要な問題点の一つは技術系職員の不足であると思われる. ISEIの現在の教官数は, 一連の測定器を最高水準の状態に保つためには決定的に不足している. アメリカやヨーロッパでは, 最新の実験室が有能な技術支援チームなしで活動することなど考えられない. これは日本の研究所に共通の問題なので, 他の研究所や大学と共同して文部省に働きかけ, この重要な問題を解決することが望ましい.

(2) 大学院生の数を増やすこと

既に述べたように, さらに多くの大学院生をもつことが, ISEIの研究者を助けるばかりでなく地球科学のコミュニティにとっても役立つ. この問題を解決するためにはISEIの内外双方からの努力が必要であると思われる. この点で, 中村栄三が大学院生をPMLに勧誘するために行っている試み (学部学生に1ヶ月間基礎的な地球化学のトレーニングをするインターン制と, 1年間共同研究をする学位前研究員制度) は非常に貴重であり, 現状からの前進であるといえる. 同じような試みを, 学生がいないことが問題となっているISEIの他の部門にも広げるべきである.

(3) ISEIとしての研究目標の設定

ISEIにおける研究対象は様々であり, 異なる部門 (ある場合には同じ部門内)に 属する研究者間の対話が不足しているように思われる. 研究所として全体の研究目標 (プロジェクト) をいくつか設定することが望ましく, それによってセンターの存在感を強めることができよう (例えば初期のマグマオーシャンのダイナミクスと最終的運命のようなテーマ) . 研究目標は, ISEIの研究者間の討論で選ばれ, 複数の部門の研究者が共同研究に参加できるようにすべきである. こうした複数の実験室にまたがる研究目標を持つことで, ISEIの研究者間の対話はもっと意味のあるものになろう. ISEIが研究機関として成熟してきたことや, レベルの高い活動を支えるにふさわしい研究基盤を獲得したことを考えると,日 本においても世界的にも地球科学の分野で主導的な役割りを果たし続けることが期待される.

(4) 地球ダイナミクスの研究グループとの交流を強めること

ISEIの研究者の多くは地球内部の物質循環と進化に関連した研究を行っているので, 地球ダイナミクスの研究者達 (例えば地震学, マントル対流, 惑星進化など) とさらに交流を深めることが望ましい. 1999年にISEIのセンター長になった河野長は, ISEIの科学者と地球ダイナミクス研究者を結びつける重要な役を果たすことができる. 特に, 彼がいることで, コア・マントル境界の物理化学や地球ダイナモの成因とその永年変化などに関わる問題について, 地球電磁気学, 地球化学, 高圧鉱物化学などの研究者の間に共通の関心を喚起する特別の機会ができたといえる.

(5) 客員研究員宿舎

ISEIにとって, 素晴らしい宿泊施設 (三朝宿泊所) を持っていることは大きな利点である. 三宿所はキャンパス内にあり, 温泉を持ち, 手頃な朝食が驚く程安い値段で出されるなど, 大変うまく運営されている. このような素晴らしい宿泊設備なしで, ISEIが全国共同利用施設として成功したとは考えられない. ISEIの性格が共同利用タイプから高度な共同研究を中心とする機関に変わったことと, 外国人研究者の数が増加したことを考えると, 宿泊施設の設備について再考すべき時期かも知れない. 滞在研究者のために少なくとも普通の設備 (例えば勉強机, テレビ, 電話) を備えることは必要であろう. あるいは, 長期滞在者のために別の宿舎 (例えば家具つきアパートで調理設備のあるもの) の建設を考えることが有効であろう.


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