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要約


当外部評価委員会は岡山大学固体地球研究センター (鳥取県三朝町) の研究活動 の評価を委嘱された. 我々は2000年1月12日から15日まで固体地球研究センター を訪問して全スタッフにあい, また彼らの実験室も見学した. この機関は地球内 部研究センターとして1985年に設立され, 1995年に改組されて固体地球研究セン ター (Institute for Study of the Earth's Interior, 以下ISEI) となった. 改組前の1994年に N. Shimizu, R.N. Clayton, C.T. Prewittよりなる委員会が 評価を行っている (C. Allegre は書面により参加) . 従って, 我々の評価は過 去5年間の活動に焦点を合わせたものである.
我々はこのセンターについて非常に良い印象を持ったが, これは活発で高いレベ ルの研究活動と最新式の一連の実験機器が素晴らしい状態に維持し運転されてい ることにもとづくものである. 最も印象的だったのは多くの若い研究者達 (ポス ドク研究員を含む) が熱心に彼らの研究成果を示そうとしたことであった. 我々 のうち2人 (水谷, 高橋) は以前からISEIと関係があったが, あとの3人 (Hemley, 石田, Javoy) にとっては今回が初めての訪問であった. 我々は, ISEIが固体地球の基礎的な研究の面で今や世界的な研究所といって良いレベルに 到達したと確信している.
過去5年間でのISEIにおける最も目覚しい進展は, 極めて広範囲な固体を対象と する質量分析実験室 (PML) の成立である. PMLにおいては, 多数の質量分析計 装置を用いて最大7組もの同位体系を対象とする多元素同位体分析が可能である . PMLにおける技術開発として素晴らしい例は, SEM,EPMA および2つのSIMSを結 合した複合ビーム分析システムで, これにより微少な試料から極めて多種類の化 学的情報を得ることができる. 疑いもなくPMLは現在世界中で最も優れた測器を 持ち, また技術的に進んだ固体地球化学実験室の一つであると言うことができる . 日本はこれまでこの分野では歴史的に弱かったので, PMLは固体地球化学の先 進的役割りを果たすと期待される.
ISEIは超高圧実験に強力であることでこれまで国際的に認められてきた. この グループは現在も大変活動的に新しい高圧発生法を開発し, ダイアモンドアンビ ル装置やNMR実験室を立ち上げ, さらに共同してSPring-8放射光施設での研究にも 参加している. マントル内の地震波の不連続を説明する固体の相関係や, マグ マの多様性の根拠を与えるマントル岩石の融解実験はISEIの扱った2つの重要な 課題であったが, これらのテーマは現在も発展中である. さらに最近ではマント ル鉱物の物理的性質, 例えば熱拡散率, 電気伝導度, 粘性率, などの高圧下での 測定においても目覚しい成功を収めている.
1995年の改組の際に, 新しい研究部門として「基礎火山学」が設立された. こ の部門は, マグマ学 (火山学, 火成岩石学, シリケイト溶融体科学) の知識を用 いてISEIにすでに存在する強力な2部門 (超高圧実験とPML) を結びつけることが 目的であった. しかしこの部門の役割りは現在では他の2部門とくらべて余り判 然としない. これは, この部門を創設した久城育夫が退任し, 小澤一仁も東京 大学へ移ることになっているためかも知れない. 明らかに基礎火山学部門には , 2つの強力な部門と共同作業を進めるために橋わたしのできる人材が必要とさ れている.
一般的に言ってISEIにおける科学の水準は大変高い. このことは彼らの論文リス トを見ても明らかである. 2日間の面接期間中に我々はISEIの全スタッフ (ポス ドク研究員を含む) の英語能力の高さに感銘を受けた. しかし他の研究所でもし ばしばそうだが, 異なるグループに属する科学者の間での対話と共同研究には改 善の余地があると思われる. ISEIでは個々には極めて多様な研究目標が追求され ているが, 我々は多くの研究者の密接な共同作業によって探求するような焦点を しぼった目標を盛り込んだ研究計画をたてることを勧める. こうすることによっ て, ISEIの世界中の地球科学のコミュニティに対する存在感を増すことができよ う.
我々の結論は, ISEIは超高圧実験と固体地球化学の面に重点をおいた, 世界中で も先進的な研究機関の一つである, というものである. ISEIが, 高い能力を持つ スタッフ, 驚くべき量の実験機器, さらに新しい建物を持つに到ったことは, 明ら かにこれまでのセンター長達 (松井義人, 秋本俊一, 久城育夫) の大変な努力の たまものである. 新しいセンター長として河野長 (地球電磁気学の理論と実験に おいて著名) を得たことで, ISEIには地球ダイナミクス分野との対話を進め, 固 体地球科学の基本的な問題を解くチャンスが生れたといえる. ISEIのさらなる発展 のために, (1) 高度な技能をもち技術革新を進めることのできる技術者を雇用す ること, (2) より多くの大学院生を集めること, (3) センター全体の研究目標を 設定すること, を我々は勧告する. センター内でのさらなる対話と共同研究を実現 するためには, 研究者のグループ分けや研究室や実験室の再配置も検討する余地 があろう.

2000年2月29日
外部評価委員会
Russell Hemley
石田瑞穂
Marc Javoy
水谷 仁
高橋栄一 (委員長)

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