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2    ISEIにおける研究活動の評価

| 2.1 PMLグループ | 2.2 超高圧グループ | 2.3 基礎火山学 | 2.4 その他の分野 |

2.1    PMLグループ

(中村栄三, 牧嶋昭夫, 森口拓弥)

 過去5年間でのISEIにおける最も目覚しい進展は, 中村栄三による極めて大規模な固体地球化学実験室の立ち上げである (Phesant Memorial Laboratory, PML). PMLの立ち上げのためには莫大な量の資金が投入された. PMLでは現在 , 周期律表中の約半数の元素についてICPMSやTIMSを用いて最高感度,最低検出 限界による分析することができる. 多同位体分析は一連のTIMSにより最大7つの同位体系を用いた分析が可能である. PMLにはさらに2台の最新のSIMSがあり, これらはオンラインでSEMによる画像解析とEPMAによる主要元素分析と統合的に運用されている. こうしたことが実現されているのは, 世界中で最も良い装備をもつ実験室においても希有のことである.
これらの最新の装置ばかりでなく, PMLの強さは中村栄三の卓越したリーダーシップと他のスタッフ (牧嶋昭夫, 森口拓弥) との密接な協力からも生まれている. またPMLには, 比較的多数のポスドク研究者や大学院生が所属し, 彼らもよく訓練されている. 過去5年間に, 中村栄三は彼のグループで6人の博士を育てた. ヨーロッパやアメリカでは, PMLにあるような最新の測定器類は多くの技官や研究補助者を必要とするであろう. ここでは研究者や大学院生がその役割りをになっている. それにもかかわらずPMLの測定器類は大変良い状態で運転され ,様々な化学と質量分析の新しい技術が研究されている.
PMLは明らかに世界中で最も設備が良く, 技術的に最も進んだ固体地球化学の実験室の一つである. 同様に強い印象を受けるのは, 全システム (クリーンルーム,質量分析計室, イオンプローブ装置, など) が極めて合理的に配置されていることである. これは, 装置類を次から次へとつぎたすことを避けることで実現された. またこれらの最新の装置群にふさわしい新たな分析手法を開発するために努力したあとが随所に認められる. この結果として, 現在のところ地球化学の根本問題よりは分析技術に関する論文 (良い雑誌に発表されてはいるが) の割合が高くなっている. この割合を近い将来に逆転し, 同位体地球化学において国際的な名声を確立すべきであろう.

2.2    超高圧グループ

(伊藤英司, 桂智男, 米田明, マイケル・ウォルター, 神崎正美)

 ISEIはマントルの岩石やその他の物質の相関係についての超高圧実験に強力であることでこれまで永く国際的評価を受けてきた. 伊藤英司による様々な相図は地球科学の多くの分野で基準とされている. 三朝型の多重アンビル高圧装置はいくつかの海外の研究機関に輸出され, 現在では世界中で高圧地球科学の標準的な装置となった. この伝統は現在でも強く維持されている.
伝統あるマントル物質の相平衡関係研究に加えて, ISEIの高圧実験グループは鉱物物理学的性質の測定へと研究分野を広げている. 桂智男による地球深部構成鉱物の熱拡散率や電気伝導度の測定はその好例である. また米田明は超音波測定の実験室を構築しつつあり, ここでは小さな実験試料に関する弾性的および非弾性的性質が最新の実験テクニックで測定可能となるだろう.
現在でも多重アンビル装置による高圧発生の最前線は, 伊藤英司により焼結ダイアモンドアンビルを用いて開拓されている. SPring-8の放射光設備を用い, 金とMgOの状態方程式によって記録された最大圧力は40GPaである. しかし, このような焼結ダイアモンドアンビル装置による実験で真に成功を収めるために, 適切な投資が必要であろう (例えば焼結ダイアモンド立方体の加工機や, 原料物質の十分な供給など) .
現在最高水準のダイアモンドアンビル装置 (DAC) の実験室がマイケル・ウォルターによって立ち上げられた. DACは, これまで歴史的に強力だった大容量多重アンビル方式と相補的な技法として歓迎すべきものであり, 強く推進すべきである. 神崎正美によって最近導入されたNMR装置も超高圧実験グループへの重要な追加である. (ウォルターと神崎は2人とも形式的には基礎火山学に属しているが) . これらの新しい装置類がセンターの資金によってではなく, 競争的な科学研究費補助金によって購入されたことは特筆すべきことである.
ISEIの科学者の活動範囲から考えると, 明らかに欠けていると思われるのはX線回析と分析透過電顕 (TEM) を用いて構造決定を行いうる鉱物学者又は結晶学者である. このような人材は超高圧グループ (大容量とDAC装置の双方) にとって新しい, 鉱物や物質相の研究において決定的な重要性をもつ. DAC実験においては, 分析電顕は化学的及び結晶学的情報を得るための理想的な手段である.
第3世代の放射光施設SPring-8は1997年に西播磨に設置された. ISEIの超高圧グループは, その高い技術レベルとスタッフの数から考えて, SPring-8の設備において主導的な役割りを演ずることが期待されている. すでにISEIの超高圧グループによっていくつかの重要な仕事がSPring-8においてなされている (例えば MgSiO3ペロフスカイトの安定領域やケイ酸塩溶融体の粘性など). もしこれらの 実験に適当な数の大学院生を投入することができれば, その真の威力が揮発されよう.

2.3    基礎火山学

(小澤一仁, 日下部実, 山下茂, 神崎正美, マイケル・ウォルター)

新しい研究部門「基礎火山学」は1995年改組の際に設立された. この部門は,マグマ学 (火山学, 火成岩岩石学, ケイ酸塩溶融体科学) の知識を導入することにより, ISEIの2つの強力な部門 (超高圧実験とPML) を結びつけることが目的であった. この部門を体現していた久城育夫前センター長の退任と, 小澤一仁が近々東京大学へ移動することになった (2000年4月) 結果, 2つの部門の橋渡しをする上で鍵となることができる人材が明らかに必要となっている.
安定同位体化学の日下部実と実験岩石学の山下茂は基礎火山学に属している.日下部はカメルーンのニオス湖での事故の後に火山の火口湖の不安定性を詳しく研究してきた. 山下は火山噴火のダイナミクスを議論するために, ケイ酸塩メルト中の水の溶解度を研究している. 安定同位体の測定装置は明らかに良い状態に保たれており十分働いている. しかし, 最も新しいが同時に最も故障の多いPRISM型を除くと, 他の質量分析計はいずれも安定同位体分析の技術からいって10-15年以前の時期のものである. もっと高感度で分解能の大きい, 例えば連続流のIRMSの統合型又は静的装置, などの導入が計画されている. これらの装置があればISEI全体にとって, 特に高圧実験の微量な生成物の同位体分析などで能力を発揮できよう.
マイケル・ウォルターは現在基礎火山学に所属しているが, これは彼の研究対象(太古代のコマチアイトマグマの成因, 冥王代のマグマオーシャンの結晶化など)がマグマに関連した問題であることを考えれば適切である. 彼はまた, 多重アンビル装置に興味と経験を持っており, さらに新しいDAC実験室を動かしていることから高圧グループの一員と考えることもできる. 高圧グループの他の研究者達の関心は鉱物物理学に傾いているが, ウォルターの関心は地球化学方面にも広がっている. この点からいって, 彼は固体質量分析グループと高圧グループをつなぐ役割りを果たしており, ISEIを国際的な地球科学のコミュニティと結ぶ役割りとも合わせて, ISEIにとって重要な人材である. 同様に, 神崎正美も現在基礎火山学に属しているが, 高圧実験と結晶化学における高い能力によって, 高圧グループ中の鉱物学者として同様に重要な役割りをになっている.
勿論, スタッフの様々な技術と関心を反映したより単純な組織も考えられよう.その場合には地球化学 (岩石学と安定および放射性同位体を含む) と高圧鉱物物理学ということで, 使う装置にも対応し, 世界中のよく似た研究機関の場合と同様の構成になろう.

2.4    その他の分野

(河野長, 千葉仁, 木島宣明)

別の安定同位体地球化学者 (千葉仁) と熱水に関する地球化学者 (木島宣明)がPMLと同じく基礎宇宙化学部門に所属している. PMLとこれら2人の間には殆ど関連がないように思われる.これらの研究者は酒井均 (1984年に東大へ移 り現在は退任) の安定同位体実験室と岩石ー水相互作用実験室から出発して,あとをついだものであり, 日下部や山下と同様にマグマの熱水過程に関わる研究をしているので, 我々にはこの2人が何故基礎火山学ではなく基礎宇宙化学部門に属しているのか理解しにくかった. 千葉が九州大学からISEIに戻ってきたのはごく最近なので, 彼の海嶺の熱水環境の研究はまだ三朝においてはあまり進んでいない. 我々はこの研究が近い将来に発展することを期待している.
河野長は東京大学地球惑星物理学科から1999年3月に移ってきた. 評価委員会メンバーは最後に彼の研究室を訪れ, 自己無矛盾な地球ダイナモ理論であげた最も新しい業績の説明を受けた. 東京大学から来た学生とともに, 河野は世界各地の火山岩(例えばアイスランド) の古地磁気研究も行っている. 我々は彼が管理職としてばかりでなく,科学者としても大変活動的であることに感銘を受けた.


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